本記事では、『原子核(2)~放射性崩壊と半減期・質量とエネルギーの等価性・質量欠損と結合エネルギー』について解説していきたいと思います。
大学受験物理講師・ともくん
青森県出身。38歳。
経歴 東北大学物理学科→東北大学大学院理学研究科物理学専攻→公務員(教職ではない)→塾業界に転職→3つの予備校&塾をかけもつプロ講師(物理・数学)
歴代合格実績:旧帝大医学部、国公立大・私大医学部、東工大、旧帝大等多数
長い講師歴で数千人近くの生徒を送り出してきました。実際にいろいろな生徒と接する中で培った経験値を活かして、より多くの読者の皆様が将来の夢をかなえることができるようお手伝いできればと思っています。
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原子核
原子核の構成
原子は,正の電荷をもつ原子核と,負の電荷をもつ電子からなる。原子全体としては電気的に中性である。原子核は,正の電気量\(+e\)をもつ陽子と電荷をもたない中性子から構成される。陽子と中性子を総称して核子という。
粒子 | 電気量 | 質量[kg] |
電子 | \(-e\) | \(9.109\times10^{-31}\) |
陽子 | \(e\) | \(1.673\times10^{-27}\) |
中性子 | 0 | \(1.675\times10^{-27}\) |
原子核に含まれる陽子の数を原子番号という。また,陽子の数を\(Z\),中性子の数を\(N\)とするとき,核子の総数\(A=Z+N\)を質量数という。元素記号Xの原子核は\(^A_Z\rm{X}\)のように表す。
同位体
同じ元素でありながら中性子の数が異なる原子がある。これを同位体(アイソトープ)という。例えば,水素の同位体には水素(\(^1_1\rm{H}\)),重水素(\(^2_1\rm{H}\)),三重水素(\(^3_1\rm{H}\))がある。
統一原子質量単位
原子の質量はきわめて小さい。そのため,原子核や原子の質量を表すときに,炭素の同位体\(^{12}_{\ 6}\rm{C}\)原子1個の質量の\(\displaystyle\frac{1}{12}\)を統一原子質量単位(記号u)として質量の単位に用いることが多い。なお,\(1\rm{u}≒1.661\times10^{-27}\)kgである。
統一原子質量単位を用いると,核子1個の質量は,ほぼ1uに等しい。\(^{12}_{\ 6}\rm{C}\)原子の質量は,統一原子質量単位を用いると12uである。この値12を基準として,他の原子1個の質量を相対的に表した値を,元素の原子量という。
放射線とその性質
放射線
ウラン(U)やラジウム(Ra)などの不安定な状態の原子核は,放射線と呼ばれる高エネルギーの粒子や電磁波を放出して,自然に別の原子核に変わっていく。このような変化を放射性崩壊という。また,原子が自然に放射線を出す性質を放射能という。放射能をもつ物質を放射性物質,放射能をもつ同位体を放射性同位体(ラジオアイソトープ)という。
放射線は,物質を透過し,物質中の原子から電子をはじきとばして物質内にイオンを生成するはたらき,すなわち電離作用をもっている。放射線には,主なものとして\(\alpha\)線,\(\beta\)線,\(\gamma\)線がある。\(\alpha\)線,\(\beta\)線,\(\gamma\)線の特徴は以下の表のとおりである。
種類 | 本体 | 電離作用 | 透過力 |
\(\alpha\)線 | ヘリウム原子核\(^4_2\rm{He}\) | 強 | 弱 |
\(\beta\)線 | 電子 | 中 | 中 |
\(\gamma\)線 | 波長の短い電磁波 | 弱 | 強 |
放射性崩壊
原子核の放射性崩壊には\(\alpha\)線を放出する\(\alpha\)崩壊,\(\beta\)線を放出する\(\beta\)崩壊,\(\gamma\)線を放出する\(\gamma\)崩壊がある。
\(\alpha\)崩壊
\(\alpha\)崩壊では,\(\alpha\)線として原子核から陽子2個と中性子2個がHe(\(\alpha\)粒子)を放出する現象である。よって,原子核は,質量数が4,原子番号が2だけ減少する。
\(\beta\)崩壊
\(\beta\)崩壊では,原子核内の中性子1個が陽子1個と電子1個に変化する現象である。このときに放出される電子の流れが\(\beta\)線である。このとき,質量数が変わらず原子番号が1だけ大きな原子核に変わる。
\(\gamma\)崩壊
\(\alpha\)崩壊や\(\beta\)崩壊が起こった後は,励起状態(エネルギーが高い状態)であることが多い。その場合,\(\gamma\)線(電磁波)を放出して,よりエネルギーの低い状態に移っていく。\(\gamma\)線の放出においては,原子番号も質量数も変化しない。
半減期
半減期:\(\displaystyle N=N_0\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
初めの原子核の数\(N_0\),時刻\(t\)後に崩壊せず残っている原子核の数\(N\),経過時間\(t\),半減期\(T\)
不安定な状態の原子核が一定時間に崩壊する確率は,それぞれの原子核で決まっている。未崩壊の原子核の数は時間とともに一定の割合で減少し,その数が半分になるまでの時間を半減期という。初めの原子核の数を\(N_0\),時間\(t\)後に崩壊せず残っている原子核の数を\(N\),半減期を\(T\)とすると,\(\displaystyle N=N_0\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)の式が成り立つ。
放射線の測定単位
放射線の測定単位には,次のようなものがある。
放射能の強さを表す単位にはベクレル(Bq)を用いる。これは1s間に1個の割合で崩壊するときの放射能の強さを1Bqとする。
放射線が物質に吸収されるとき,放射線が物質に与えるエネルギーを吸収線量という。吸収線量の単位はグレイ(Gy)を用いる。1kgの物質が1Jのエネルギーを放射線から受けたときの吸収線量を1Gyとする。
人体への影響は放射線の種類やエネルギーなどによって異なる。それらの違いを考慮した係数を吸収線量にかけて補正した量を等価線量といい,単位はシーベルト(Sv)を用いる。また,放射線の人体への影響は,放射線を受けた組織・器官によっても異なる。それらの違いを考慮した係数を等価線量にかけ,すべての組織・器官で足しあわせたものを実効線量という。実効線量の単位にもシーベルト(Sv)が用いられる。
放射線の影響と利用
放射線は,がんの治療,診断,農作物の品種改良などさまざまな分野で幅広く活用されている。一方,放射線はその電離作用によって生物の細胞に影響を及ぼすので,必要以上の放射線を浴びないよう注意する必要がある。
核反応と核エネルギー
質量とエネルギーの等価性
質量とエネルギーの等価性:\(E=mc^2\)
静止している物体がもつエネルギー\(E\)[J],物体の質量\(m\)[kg],真空中の光の速さ\(c\)[m/s]
アインシュタインは,特殊相対論を提唱し,質量とエネルギーの等価性を示した。真空中の光速を\(c\)[m/s]とすると,静止中の質量\(m\)[kg]の物体は,\(E=mc^2\)[J]のエネルギーをもつことになる。
質量欠損
原子核の質量は,それを構成する核子の質量の総和よりも小さくなる。陽子の質量を\(m_{\rm p}\),中性子の質量を\(m_{\rm n}\),原子番号\(Z\),質量数\(A\)の原子核の質量を\(M\)としたとき,質量の差\(\it\Delta m\)は,次の式で表される。
\begin{eqnarray} \it\Delta m=Zm_{\rm p}\rm +(\it A\rm -\it Z\rm)\it m_{\rm n}\rm -\it M \end{eqnarray}
この\(\it\Delta m\)を質量欠損という。質量欠損に相当するエネルギー\(\it\Delta E=\it\Delta m\cdot c^{\rm2}\)を原子核の結合エネルギーという。原子核中の核子は核力と言われる強い力で結びついている。これをばらばらの状態にするには結合エネルギーに相当するエネルギー加える必要がある。
核反応
ある原子核に大きなエネルギーをもった別の原子核や中性子などが衝突すると,異なる原子核に変化することがある。これを核反応という。核反応を表す反応式において,中性子nや陽子pなどの粒子が関与するとき,陽子は\(^1_1\rm p\)\(\left(または^1_1\rm H\right)\),中性子は\(^1_0\rm n\)で表す。核子の数(質量数)の総和と電気量(原子番号)の総和は,核反応の前後において変化しない。
【例】\(^{14}_{\ 7}\rm N + ^{4}_2\rm He → ^{17}_{\ 8}\rm O + ^{1}_1\rm H\)
核反応が起こると,反応前後で原子核の質量の総和が変化する。この質量が反応によって減少するとき,質量差に相当するエネルギーが核エネルギーとして放出される。また,この質量が反応によって増加するとき,質量差に相当するエネルギーが核エネルギーとして吸収される。
核分裂と核融合
核子1個当たりの結合エネルギーは,質量数が56の鉄\(\left(^{56}_{26}\rm Fe\right)\)のあたりで最大値をとり,最も強く結合していて安定となる。そのため,鉄よりも質量数の大きな原子核は,分裂することによって,より安定な原子核に変化して質量の差に相当するエネルギーを放出する。このような核反応を核分裂という。
逆に,鉄より質量数の小さい原子核は,融合することによって,より安定な原子核に変化して質量の差に相当するエネルギーを放出する。このような核反応を核融合という。
原子力発電
原子力発電は原子炉で核分裂によって発生した熱を利用してタービンを回し発電する。原子炉内で進行する核分裂反応では,ウラン235\(\left(^{235}\rm U\right)\)に中性子が衝突し,分裂する際に放出される複数個の中性子が,また別のウラン235の原子核に当たることで,核分裂が続けて連鎖的に起こることになる。このような反応を核分裂の連鎖反応という。連鎖反応を継続させるためには,ある量以上のウラン235がまとまって存在しなければならない。核分裂が連鎖反応を進行させるのに必要な量を臨界量という。
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